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ブログ fade-out 第5回「坂の途中の、ゴージャス」

ザ・ブリュースター・ソサエティが展開する万華鏡世界大会は、流麗な社交性を織りこんだ、
日本人のわたしには上流社会そのものに見えた。
オレゴン州ポートランドの「The Resort」を会場とする2004年度のコンベンションは、自尊心と表敬に満ちた、一大社交場だった。
今回は私が出席した万華鏡世界大会を思い出して、できるだけ正確に書いてみよう。

カレイドスコープ昔館のコンベンション参加は11度目だったが、成田空港から思い起こしてみる。
空港施設のボードに、「万華鏡世界大会米国視察団US852」と表示があって、その公式性に、日本人の参加が多いことが分かった。
カレイドスコープ昔館代表として出席するわたしと荒金純子と香川亮の3人がサンフランシスコ空港に到着してみると、
若くて美しいローラ嬢が出迎えてくれていた。彼女の運転でアーチストのジュディス・ポールとトム・ダーデン夫妻宅に直行。
着いてみると坂の途中を活かした夫妻の家屋は、花壇に囲まれた、巨大なデコレーションだった。
万華鏡的オブジェの貼り付けられた外装の玄関を入ると居間も台所も階段も、ジュディス手造りの意匠で装われ、
特にバスルームには息を呑んだ。
まっ青なタイルにイルカがしぶきを上げて躍っていた!
またテラスは、手摺りの下に嵌め込まれたガラス面がすでに万華鏡だった。
植生した花々が、手摺りの向こうで、咲き乱れている!
万華鏡を、家屋と環境で表現している!
すごいデザインの邸宅のパーティーは日本人でいっぱいだった。
大皿に盛られた料理は手作りという家庭的なもてなしだったが、
広大な個人宅でのパーティに縁が薄く言葉も不自由な30人ほどの日本人は、
オープンルームのあちこちでただ黙って飲み食いする。
そのなじめないでいる黙々のさいちゅう、悲鳴に近い人声があかった。
声の方向のトイレットに駆けつけてみると、便器から大便やペーパーが溢れ出ている。
人影はなかった。
30人という日本人ゲストの使用で便器は詰まってしまい汚物がキレイなタイル床を汚している。
なんとかしなくちゃと慌てふためいていると、脇から腕まくりの手が伸びた。
ものも言わず仙台桴館の千葉智子さんが、肩まで便器に腕を突っ込んでいた。
私が先に駆けつけていたのに、排泄物に一瞬の躊躇があって手を出せなかった年長者の私は、ひどく恥ずかしかった。
終始無言、静かで細やかな、千葉さんの果敢な行動力のおかげで知れ渡ることもなく、便器の疲労は隠密にすんだ。
 アメリカ第一夜のサンフランシスコウェスティンホテルまで車で送ってくれたのはトム・ダーデン氏。
荷を置いたわたし達カレイドスコープ昔館の3人はディナーをサンフランシスコ港の波止場にもとめた。
コンベンション出席のための出張が10回目となる荒金さんは、思い出に鮮やかな、よいレストランを知っていた。
席に着くと、サンフランシスコ湾へと延びた、埠頭が臨める。
長い波止場に人影はなく、湾内を、どこの国の船か、ゆっくり、航っている。
街灯が照らして出しているのは、北米大陸の始まりなのか、角々した低い建物のあるかっての波止場は吹く風もなく乾いていた。
巨大なロブスターなど皆で食べて、176ドル。チップ20ドル。
明日は大会会場、宿泊地ともなるThe Resortへ移動する。
書き手 荒木和子

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