万華鏡について

- 英国での発明、米国での発展 -

スコットランドの物理学者ブリュースターが発明
万華鏡は1813年にスコットランドの物理学者デヴィッド・ブリュースター卿(Sir.David.Brewster 1781-1868)によって発明されました。
彼は、光学や光学機器に関する様々な研究を行い、物理学者としては、偏光に関する「ブリュースターの法則」を発見したことが最大の功績とされ、
これは現在でも物理学の重要な基礎理論のひとつとなっています。
しかし、私達にとって一番なじみのある彼の業績は、赤、青、黄を「色の三原色」として定義したことでしょう。
 
又、彼はフレネルレンズを発明して、灯台の投光性能の向上に大きく寄与した人でもありますが、
この経験をヒントとし、素敵な副産物を創り出しました。
複数のガラス板を角度をつけて組み合わせ、これを筒の中に組み入れたものをカレイドスコープと名付けて発表しました。
これが当時のロンドンやパリで「偉大なる哲学的な玩具」として大評判になり、この後、瞬く間に世界中に広がってゆく事になるのです。
 
 彼はこのすばらしい玩具の発明者として、1816年にパテント申請し特許を得ました。
しかし、特許登録上の不備から、他の抜け目ない人たちに出し抜かれ、これによるお金儲けはできなかったようです。
 
アメリカへの伝承
カレイドスコープは、早い時期に大西洋を渡ってアメリカにも伝えられました。
プロイセン生まれで1847年にアメリカに移住したチャールズ・ブッシュ(Charles G. Bush 1825-1900)が1870年頃に制作したスコープは、
液体入りのガラスのアンプルが使われており、これは現在でも非常に重要な技巧として活きています。
彼のスコープは逆にビクトリア朝のイギリスに渡り、サロンで人気を得ました。
 
その後、スティーブン・カンパニーによって初めて量産されて以来、
アメリカでも子供の玩具として一般の人々にも広がりました。
 
アメリカでの「カレイドスコープ・ルネッサンス」
1960年代から70年代にかけて、サイケデリックカルチャーの影響もあってか、
カレイドスコープを、新しいアートとして、又、人々の心に癒しやインスピレーションをもたらすツールとして再認識する動きが始まりました。
1982年の『スミソニアンマガジン』におけるカレイドスコープ特集記事によって、さらにブームが生み出されました。
 
この流れを単なる一過性のものに終わらせずに、1つの文化として定着させたのが、コージー・ベーカー女史(Cozy.Baker)です。
ミセス・べーカーは、1985年に世界初の万華鏡の本『Through the Kaleidoscope』を出版し、
同時に世界初の大規模な万華鏡の展示会を開催しました。
来場者は、約1ヶ月間に1万人以上を数え、大盛況となりました。
さらに続く1986年には、発明者の名前を取った“The Brewster Society”を設立しました。
アーティスト、業界関係者、愛好家すべての利益になる米国万華鏡協会として発足させ、毎年会合を開き、新作発表、情報交換、愛好家の交流の場としています。
1989年にはスミソニアン・インスティテュートがスポンサーになり、
「科学と芸術の反響」というテーマで3年間に渡る展示会が全米18都市で開かれるなど、カレイドスコープへの関心が高まっていきました。
 
こうして、イギリスで生まれカレイドスコープは、
アメリカで「カレイドスコープ・ルネッサンス」として再発展したのです。

- 日本への渡来、新世紀のネオ・ルネッサンス -

日本への渡来
1819年(文政・天保期)の大阪の年代記『せつようきかん攝陽奇觀』に「紅毛渡り更紗眼鏡流行大阪にて贋者多く製す」という記述があり、
カレイドスコープは、発表後わずか3年で日本に伝わったことになります。

1850年に蘭学者、高野長英が訳した『サンペイタクチーキ三兵答知幾』に「カレイドスカフ可列以度斯可布」とあり、
その後明治時代に入っては「ひゃくいろめがね百色眼鏡」とも呼ばれ、さらに改良されたものが「ばんかきょう万華鏡」として人気を集めました。

国産品も出回り、1890年頃は「にしきめがね錦眼鏡」として流行しました。
 
これ以降、現代まで誰もが知っている子供の玩具として、
又、観光地でのお土産として日本で定着することになりました。
 
日本の「カレイドスコープ・ルネッサンス」
1994年に、日本初の万華鏡のみを扱う専門店、
「カレイドスコープ昔館」がオープンして、アメリカン・カレイドスコープを紹介しました。

これを機に誰もが知っている「他愛のない子供の玩具」として認識されていた万華鏡が、大人の想像力を刺激するファンタジックなツールとして再評価されはじめました。
開店以来おおくのマスコミに注目され、今靜かなブームが進行中です。
1997年には“The Brewster Society Japan”が設立され、日本の「カレイドスコープ・ルネッサンス」が始まりました。
既に、作品として万華鏡を制作する日本人アーティストも現れています。 
 
19世紀始めにイギリスで生まれ、20世紀のアメリカで飛躍的に発展したこのユニークな文化が、新しい世紀を迎えた日本で、
これからどんな発展をするのか、非常に楽しみです。